【ある冬のおぼえがき】

好きな人が、出来た。

それは自分でも驚くべきことだ。恋愛には基本的に淡白なはず、だったから。

そしてそれを自ら行動にうつしてしまった。考える暇もないくらいに唐突に、やってきた波に乗せられてしまった、いや、乗ってしまった。

問題は、わたしには付き合っている人が別にいる、ということだ。

結婚はしていないわけだから、ただのモラルの問題ではあるのだけれど。誉められたことではないよなぁ、と思う。いくら、指一本触れていないとはいえ、好きだという気持ちに変わりはないし、一緒にいるときは、このままずっと離れたくないとさえ思ってしまうのだから。

でも、はじまってしまったものは仕方がない。そしてはじまってしまったからには、おそらく、止めることはさらに難しくなってしまっただろう、と思う。

君の指に触れてしまったから。そしてその指は、思っていたよりもずっと、あたたかかったから。

三姉妹探偵団 (講談社文庫)

三姉妹探偵団 (講談社文庫)

ブックオフの古本福袋の中の1冊。
タイプの違う美人三姉妹を突如襲った火事騒動。辛うじて逃げ出したものの自宅は丸焼け、しかも焼けあとから若い女の全裸死体が出てきて、姉妹は呆然となる。
赤川次郎は久しぶり。謎と笑いのバランスがいい。低血圧で頼りない長女綾子、しっかり者の次女夕里子、現実主義者の三女珠美。そして刑事との恋。赤川次郎の世界ではお約束の設定。プロットは面白いけれど、人物設定がいまひとつ物足りない。それでも、最後まで読ませ、謎が解けると感嘆する。(2001.10.28)

夢を見た。

高校のクラス会。全員集まって、ホテルのロビーで談笑している。
昔の恋人・後藤くんとも屈託なく話せる。お互いに近況報告をして、でも、それだけ。すぐに他の人たちとの話に立ち帰る。
女の子はみんな綺麗に着飾って、美しい。殆どの人が、女優になりたいと言って、どこかの事務所に所属しているらしい。ふと新聞を見ると、大学の同級生だった園子ちゃんが、テレビに出るらしい。土曜サスペンスみたいな番組の、刑事を取材するレポーターの役。けっこう大事そうな役で、テレビ欄にも名前が出ているほど。
何故かみんな渡辺美里の「Half Moon」を口ずさんでいる。不思議もなく。けれど、この曲はかなりマイナーな曲で、渡辺美里好きな人でも知らないかもしれないような曲。何かがおかしい、と気づきつつ、夢だとはまだ気づかない。
「どうしてその曲を知っているの?」
と尋ねる私に、それは何かのオーディションの課題曲なのだと言う。そしてみんなで「BELIEVE」を歌い始める。何気なくハーモニーをつける、私。
ホテルの部屋は、貴子ちゃんと同じ。疲れたので、一緒に部屋に戻る。彼女とはよく葉書のやり取りをしていて、ゆっくり話したいね、とかねがね話していたので、部屋で飲み物でも飲みながら話そう、ということになったのだった。部屋の冷蔵庫を開ける。すっぱいものが飲みたくて、グレープフルーツジュースを取り出すが、どれもまったく冷えていない。他のものはきちんと冷えていたのに、グレープフルーツジュースだけは、まったく冷えていなくて、むしろ温かい。諦めて、烏龍茶。
テレビをつけると、園子ちゃんの出ている番組がはじまる。
「この子、私の大学の同級生なの!」
警察署から出てきた刑事を、取材するレポーターの役。医者稼業と女優業を見事に両立させている彼女に、自分が惨めになる。私はまだ、大学すら卒業出来ていない。私は「何でもない」。落ち込む私を、貴子ちゃんが慰める。
「大丈夫だよ。もうすぐ卒業出来るんだし」

目が覚めた。
渡辺美里の「BELIEVE」と「Half Moon」がエンドレスでかかっていた。
グレープフルーツジュースの缶の温かさが、気味悪いほどべったりと、指先に残っている。生ぬるい感触が忘れられない。

(半月)