【翳りゆく部屋】

帰ってきたら、彼は姿を消していた。
彼の荷物は数日前に、とっくに実家に送り返されていた。いや、もしかしたら捨てたのかもしれない。それはわたしにはわからないことだけれど、とにかく、数日前から、部屋はかなりがらんと広くなっていた。けれど、そんなことにも注意を払えないほど、わたしは疲れ、焦燥し、頭の回らない状態だった。
そして、彼自身も、今日、この部屋からいなくなった。

不思議と、寂しい、とは思わなかった。
ただ、疲れていて、誰にも邪魔されずにぐっすり眠りたかった。だから、いつものように睡眠薬を飲んで、眠りに就く準備をした。

彼のことを心配することが、彼にとっていいことなのかどうなのかはわからない。わたしが彼に気持ちを残していないといえば嘘ではないのだから。わたしはきっと、また彼の手を引いてしまうに違いない。しあわせにしてあげられる保証も希望もないままに。
それならドアを完全に締め切って、ノックの音にも耳をふさぐほうがいいのだろうか。
わからない。
とにかく今は眠りたい。眠ってしまいたい。

けれど、わたしは一生、この罪悪感を忘れることはないだろう。

誰もがわたしの選択を「正しかった」と言ってはくれるけれど。でも、それだって、わたしの側からの都合のいい解釈に過ぎないのかもしれないのだから。