【眠ること】

睡眠についての講演会に行く機会を得た。
ここしばらく、わたしは「心身症」とか「精神障害」とか「不眠」とかいう言葉を、自分の仕事から丁寧に避けてきた。それに近い症例を診たら必ず専門医に送ることにして、自分はなるべくかかわらないようにしてきた。それは自分を守るためでもあり、もちろん、彼/彼女に対してのベスト・チョイスだと思ったからだ。
もちろん、睡眠薬抗不安薬の添付文書は読む。効き方・副作用・禁忌事項。でも、あえてそれ以上に踏み込むことをやめていた。
専門外のことにはあまり手を出さないようにしよう、と決めていたこともある。(といっても、わたしにはまだ「専門」といえるようなものは存在しない。ただ、「仕事」にしようとしている分野があるだけだ。)それに、まだ自分がしっかりしていないものだから、(思い切り言い方を悪くすると)「自分のことで精一杯なんだから、他人の感情まで面倒見切れないわよ!少なくともそれを『仕事』にする気はないわ、プライベートならともかくね」と思っていた部分もある。要は、自分を守るのに一生懸命だったわけである。みっともないが、それはわたしが生きていくためのぎりぎりの線だった。
さて、それで、睡眠障害の講演会である。
行ってみようと思ったのは、何も、自分に余裕が出来たからではない。それに、今日はかなりのタイトスケジュールで、実を言うと、途中で放り出してきた仕事もひとつ、ふたつある。(今日しなくてもいいことではあったから、明日にでもゆっくりやろうとは思っている。)何故だろう?何がふっきれたのか、自分でもよくわからない。わざわざ仕事を切り上げて、会場に足を運ぶよりも、製薬会社さんにちょっと問い合わせれば済むようなことだったのかもしれないし。
強いて理由をつけてみる。
眠れない患者さんはたくさんいる。「入院」という非日常、それだけで不安定になったりすることもある。入院が長くなればなおさらだ。
「眠れない?うーん、じゃあ○○でも処方しといて」とか、「昼間寝ているんじゃないの?それじゃあ夜眠れないよ。しばらく起きておけば自然に眠るよ、別に何もしなくていい」と上司に言われることもときどきあるが、なんとなくすっきりしないことが多い。でも、それに対して意見するだけの知識も経験も文献も持ち合わせないわたしは、黙って肯う。○○なんてあまり効かないのになぁ、とか、夜眠れないのってつらいのになぁ、と経験的に思いながら。
だから、それを少しでも緩和したくなったのかもしれない。おこがましくも。せっかく薬を出すのなら、少しでも合ったものを。無駄骨かもしれないが、ひとつでも足がかりがあれば、それをもとに少しはなにか出来そうな気がする。
きっと、ひとつでもいいから、足がかりが欲しかったんだろうなぁ、わたし。
入院なんて誰だってしたくない(いや、例外もいるかしら。)のだから、もともとの病気をなかなか軽快させられずに入院が長引くのなら、それ以外の部分で改善出来るところはしてあげたい、いや、むしろ自分のために。と、そんなふうに思っている。

あぁ、わたしってまだまだ甘いなぁ、と、こんなことを考えるたびに思うのだけれど。