【真夜中のかたすみで】

ふと息が苦しくなって、目を醒ました。からだを起こしてベッドに座り込む。
ここはどこだろう。暗闇を怖がって眠れないわたしのために、蛍光灯はつけっぱなしだ。それでも一瞬、自分がどこにいるのかがわからなかった。
あなたは、誰?そしてわたしは、誰?たくさんの疑問符が浮かんでは消える。

わたしにとっての「日常」は、やはりいまは「仕事」を中心にまわる生活だったのだ、と思う。仕事を休んでからもう何日になるかもわからなくなりつつある。1日中、何もしないで臥床し、ときどき本を読んだりパソコンを立ち上げたりちょっと出かけてみたり。そんな「非日常」はわたしを少しずつ回復させてくれてはいる。だから、それには感謝をするべきだ、とは思う。
けれど、きっと今日も、わたしがついこの前までいた病棟では人が出たり入ったり、あるいは命を落としたり救われたり、しているのだろうな、と考えてみる。そしてわたしは、そこでは少しでも必要とされていた。たとえちょっとした処方を打つだけでも、検査をオーダーするだけでも、少しでも誰かの役に立てている、という実感があった。
誰かに必要とされないと生きていけないなんて情けない話ではあるけれど、きっとわたしは誰かに必要とされていたいのだろう、とも思う。

ひとりでも生きていけるよ、なんて強がりだった、といまは思う。

この空のきらめきを
あなたに届けたい

私の色で染まらないように
私の音で聞こえなくならないように
私の匂いで見えなくならないように

この空のきらめきを
あなたに届けたい
ただ あるがままの姿で

どんなに美しいものですら
私という影を通り抜けると
美しさを失ってしまうから

私の紡ぎ出す言葉は汚れていて
嘘ばかりになってしまうから
ほんとうのことは
いつも伝わらないままで

色もなく
音もなく
匂いもなく
何もなく
そうあることが望み

どこまでも透き通って
何ひとつ持たなくなれればいいのに
いっそこのまま
灰すら遺さず消えてしまえたら

この空のきらめきを
あなたに届けたい
ただ あるがままの姿で
私の名前など決してつけないように
(透明であること)