【彼女が髪を切った理由】

適応もない薬を患者さんの希望だけで処方してよいものか、かなり悩んだことがある。
確かにどこの病院に行っても治らなかったのかもしれない。いろんな病院でいろんな診断名をつけられ、いろんな治療を受けてきたとのことだ。そのような疾患、こんなひよっこのわたしに正確な診断をくだせるとは思っていないが、少なくともあるひとつの疾患を思い浮かべ、それに応じた治療をしたい、と思うところまでは間違ってはいないと思う。そしてその治療は(たとえばステロイド大量内服とか、手術とかと比べれば、だけれど。)副作用もそれほど強くはないものだ。
患者さん本人は、わたしの提案した治療法になかなか同意してくれず、それならこのまま経過観察をするしかないなぁ、と考えていたところに、患者さん本人から逆に治療法を提示されてしまった。けれど、それはわたしの考える疾患の(少なくとも保険上の)適応ではないし、効くというエビデンスも寡聞にして聞いたことがなかった。もっとも、患者さんの提示してきた治療法も、それほど副作用が強いわけでもなく、しかし、効かない薬を処方するには気が進まず(副作用のない薬なんてないのだ。もしかしたら毒になり得る薬をそうそう簡単に処方したくない。)結局、かなりの説得のもとに、同意を得てわたしの思うところの治療を開始することになったのだった。
近頃(いや、昔からそうだったのかもしれないけれど。)、テレビなどで病気に関する情報が氾濫し、錯綜している。そのおかげか、患者さんもある程度正しい知識を持ってくれている場合も少なくない。テレビ番組がきっかけで、早期発見出来た症例もあるのだし。けれど、ときどきはやはり間違った知識を持ってしまって、なかなか訂正出来ない場合もやはり、少なくはない。医療関係者でさえ、誤った知識(あるいは古い知識)を持ったままの人もいるわけで、それはまぁ人のことは言えないのだけれども。
愚痴っぽくなってしまったが、つまるところ、患者さんの不利になるようなことはしたくないし(出来ることなら完治してもらうのがベストだ。)そして自分も不利になるようなことはしたくない、というのが本音だったりもする。

と、まぁ、この程度考えがまとまるようになったということは、多少元気になりつつあるということなのだろう。
しばらく放置していた調べものや書きものも少しずつはじめていこうと思えるようになったし。無理しすぎない程度に、程よく「がんばる」。
バレエのレッスンもずっと休みっぱなしだし、友達と食事にいく約束もまだ果たせていないけれど、それも元気になってから、少しずつ、少しずつ。