【行ったこともないはるか遠い国の夢を見る】

ロシアになんて行ったこともない。行きたいと強く思ったこともないし、どんな国なのかもいまひとつよくわからない。かつてはソ連であったこと、とても寒い季節があること、とくらいしか知らない。それなのに夢に現れたのはそれこそ夢みたいに美しい、ロシアという名前を借りた国だった。
そしてわたしは一人の美しい少年(青年だったかもしれない)と出会い、恋におちる。目の醒めるような花火、繊細なガラス細工、意外と大味な料理…やはり、これはわたしの幻想にしか存在しない国だったのかもしれない。だってあまりにもつじつまがあわなすぎる。
けれど、その日のうちに少年は処刑される。魔女狩りのようなものだ。居合わせた講堂で、彼と、わたしのその国の友人たち、そして見知らぬ人々が憲兵に連れられていく。講堂の前に一列に並ばされる。憲兵がわたしたちに向かって告げる。「彼らを処刑してよいか。賛同するものは拍手を」と。隣の友人はわたしと目を合わさぬように「拍手しなければいけないのだ」と言う。わたしは小さく手を叩く。その場の誰も賛同なんかしちゃいないのに。
そして彼らは外に連れて行かれる。痛いくらいに寒い夜。講堂のモニタに外の様子が映し出される、そして、
こんな夢だ。あまりにも救いがなさすぎる。